クルマのボディが痛みにくい凍結防止剤の散布が一部の高速道路で開始されました

「雪国で使われた中古車は買わない方がいい」という話を耳にしたことがある人も少なくないと思います。

雪国では道路に凍結防止剤を散布しますが、この凍結防止剤の影響でボディがサビやすくなってしまうからです。

道路の凍結防止剤として主に使われているのは、「塩化カルシウム」という塩の仲間です。

塩が鉄をサビやすくさせるということは、誰もが経験的に知っていると思います。

クルマのボディは鉄でできていますから、まさに塩は大敵ということになります。

塩がまかれた道路を鉄でできたクルマを走らせれば、ボディに影響が出ないはずはありません。

参考記事:雪国で使われた中古車を買うときはボディの痛みに注意せよ
            

また、凍結防止剤による影響はクルマのボディだけではありません。

道路には、橋梁やガードレールなどいたるところに鉄が使われています。

凍結防止剤を使うことによって、そういった道路の周辺の鉄でできた部分の腐食がどんどん進んでしまうことになります。

そのような凍結防止剤による道路の痛みは、道路管理者にとっては頭の痛い問題となっています。

そういったさまざまな問題を解決するために、一部の高速道路では「サビにくい」凍結防止剤の使用が開始されています。

それはいったい、どのような凍結防止剤なのでしょうか?

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そもそも道路の凍結防止剤になぜ塩化カルシウムが使われているのか?

クルマのボディは鉄でできているのに、なぜサビを誘発する塩の仲間を道路にまくのだろうか、とお思いの方もいると思います。

理由は単純で、塩には氷を解かす働きがあるからです。

普通の水は0℃で氷になりますが、塩水というのは簡単には氷になりません。

気温が氷点下になる地域であっても、海の水がなかなか凍らないのはそのためです。

実際に、水に塩化カルシウムが混ざると、最大で51℃まで凝固点がさがります。

過去に日本で記録した最低温度は、北海道の旭川地方気象台で1902年1月25日に観測された-41.0度ですから、道路に塩化カルシウムを散布すれば確実に道路の凍結を防止することができるわけです。

もちろん、塩化カルシウム以外にも凝固点をさげる物質はあります。

たとえば、酢酸カリウムや尿素などです。

しかし、塩化カルシウムを使った場合にくらべて費用的にかなり割高になってしまうことや、ニオイなどの問題もあり、あまり使われていないというのが実情です。

プロナトと呼ばれるサビを発生させにくい物質を凍結防止剤に利用

2018年から一部の高速道路で、サビを発生させにくい凍結防止剤として試験的に使用が始まったのが、「プロナト」と塩化カルシウムの混合物です。

プロナトというのは、「プロピオン酸ナトリウム」が正式名称となります。

高速道路の運営会社であるNEXCOと、富山県立大学、国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所などが共同で、橋の鉄筋防止などを目的として、プロナトを使用した新しい凍結防止剤の開発を手掛けてきました。

参考:プロピオン酸ナトリウムを活用した新たな凍結防止剤の開発

最初にこのプロナトを使った凍結防止剤が使用されたのは、東海北陸自動車道の白川郷インターチェンジから五箇山インターチェンジの間です。

この時使われたのは塩化カルシウムとプロナトの割合が9:1の凍結防止剤で、道路を凍らせないという目的に十分な効果があることが分かりました。

調達コストが塩化カルシウムの10倍かかるプロナト

クルマのボディを傷めない凍結防止剤であれば、いますぐこれまでの塩化カルシウムに変えて、すべての道路で使用してほしいというのが雪国のドライバーの本音だと思います。

しかし、プロナトを凍結防止剤として使うには、コストの問題が大きく立ちはだかることになります。

なぜなら、プロナトは塩化カルシウムにくらべて10倍の調達コストがかかるからです。

塩化カルシウムを9割、プロナトを1割の割合で混合したとしても、これまでの調達コストの2倍近くかかってしまうことになります。

ちなみに、塩化カルシウム単体の場合の調達コストは1トンあたり約3万円ですが、プロナトの場合は1トン当たり約30万円になります。

2017年度に、富山県、石川県、福井県の高速道路で使用された凍結防止剤は約2万2千トンです。

仮に塩化ナトリウム9割、プロナト1割の混合比率で2万2千トンの凍結防止剤を散布した場合、12億5千万円もの調達コストがかかってしまうことになります。

これからクルマのボディにやさしい凍結防止剤が普及していくかどうかは、今後の調達コストをどこまで下げられるかにかかっているといえそうです。

塩化カルシウムとプロナトの比率が9:1の割合で効果があるのか?

今回、試験的に導入されているプロナトを使った凍結防止剤ですが、塩化カルシウムとプロナトの割合は、9:1となっています。

9割がこれまで通りの塩化カルシウムなのに、本当にクルマのボディへの影響を減らすことができるのか、疑問に思う方もいるかと思います。

富山県立大学と国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所が行った金属腐食量を測定する実験の結果は、次のようになっています。

塩化ナトリウム(いわゆる塩)22.5mdd
塩化カルシウム 27.5mdd
プロナト  0.3mdd
塩化ナトリウムとプロナトの混合物(8:2)4.4mdd
塩化ナトリウムとプロナトの混合物(9:1)12.5mdd
塩化ナトリウムとプロナトの混合物(19:1)14.6mdd

この結果をみてお分かりの通り、塩化ナトリウムとプロナトの混合比率が9:1の凍結防止剤であっても、塩化ナトリウムだけを使った場合にくらべて、サビの発生を半分程度におさえることができます。

仮に、塩化ナトリウムとプロナトの割合を8:2にすることができれば、塩化ナトリウム単体のときにくらべて、サビの発生を5分の1にまでおさえることが可能になります。

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プロナトの混合物の凝固点はどれくらいなのか?

プロナトとの混合物によってクルマのボディの痛みを軽減することが可能であっても、肝心の凍結防止剤としての性能が低下してしまうのでは本末転倒となってしまいます。

この点も、富山県立大学と国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所で実際に実験を行っています。

濃度20%の水溶液で比較した場合、塩化ナトリウムの凝固点は-19.1℃なのに対して、塩化ナトリウムとプロナトの混合物(8:2)の凝固点は-18.9℃となり、ほとんど差がありません。

ちなみに、プロナト単体の場合の凝固点は-16.4℃となっていますので、塩化ナトリウムとの混合物とすることで、凝固点はむしろ下がっているわけです。

つまり、塩化ナトリウムとプロナトの8:2の混合物は、塩化ナトリウム単体にくらべて金属の腐食量を5分の1にまで減らすことができ、なおかつ凍結防止剤としての性能はほとんど差がないということになるのです。

コストの問題さえ解決できれば、プロナトを使った凍結防止剤には大きな期待が持てることになります。

クルマの手入れはこれまで通り必要になります

プロナトと塩化カルシウムの混合物を使うことによって、これまでの塩化カルシウム100%を使った場合にくらべてクルマはサビにくくなります。

しかし、先ほどの実験データからもお分かりの通り、まったくボディに影響がないわけではありません。

混合比率が9:1の凍結防止剤の場合だと、サビの発生量を半分程度におさえる効果しかありません。

混合費を8:2まであげると、サビの発生量は5分の1程度までに大幅に下がることになりますが、コストの問題を考えると現在のところは実用的ではありません。

そのため、たとえプロナトを使った凍結防止剤を散布している道路を走行したとしても、これまで通り洗車をしてしっかりと凍結防止剤を洗い流さないと、クルマのボディを痛めてしまうことには変わりありません。

プロナトの調達コストが下がって、混合比率の高い凍結防止剤が散布される日がくるのを期待したいところです。

文:山沢達也

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