鬼キャンと呼ばれるタイヤを八の字にする改造に何の意味があるのか?

極太のタイヤが極端に斜めに傾いて、外側に踏ん張るような形で取り付けされているクルマをときどき見かけることがあると思います。

これは、いわゆる「鬼キャン」と呼ばれる改造車で、1部のマニアの人にとっては、これがたまらなくカッコいいらしい。

また、スタイルだけではなく、「タイヤが外側に向けて踏ん張る形になるので鬼キャンにするとコーナーリング性能がアップする」などと、もっともらしく説明をする人もいます。

はたして本当に鬼キャンでコーナーリング性能がアップするのでしょうか?

鬼キャンのネーミングの由来は鬼のようなキャンバー角

そもそも、タイヤが斜めに取り付けられているクルマを、なぜ「鬼キャン」と呼ぶのか気になる人もいることでしょう。

「鬼がキャン!といって逃げ出すほどコワモテのクルマ」という意味では、もちろんありません。

これは、「鬼のようにキャンバー角が極端なクルマ」という意味です。

キャンバー角というのはタイヤの傾きのことで、クルマを正面からみたときに、タイヤの上部が外側に傾いているのを(逆八の字)ポジティブキャンバー、内側に傾いているのを(八の字)ネガティブキャンバーといいます。

鬼キャンというのは、ネガティブキャンバーを極端にしたクルマのことをいうわけです。

昔のクルマはタイヤが逆八の字になったポジティブキャンバーが多かった

そもそも、なぜタイヤにキャンバー角をつける必要があるのでしょうか?

いまから40年~50年ほど前のクルマは、ポジティブキャンバーに設定されているクルマが少なくありませんでした。

つまり、鬼キャンとは逆にタイヤの上部が外に傾いた逆八の字といわれる設定です。

当時はまだパワーステアリングが一般的ではありませんでしたので、ポジティブキャンバーにすることによって、ハンドル操作を軽くすることができたのです。

現在のクルマはパワーステアリングが普通に装着されていますので、ポジティブキャンバーにする意味はありません。

そのため、いまのクルマはほとんどキャンバー角をつけない、ニュートラルキャンバーの設定が主流になっています。

キャンバー角をつけないことでタイヤは垂直になりますので、タイヤの接地面を有効に活用することができますし、タイヤの偏摩耗も少なくなります。

ネガキャンにすることで本当にコーナーリング性能はアップするのか?

それでは、タイヤをネガティブキャンバー(ネガキャン)にすると、どういった影響があるのでしょうか?

タイヤが路面に対して踏ん張るように八の字に取り付けられているために、コーナーリング性能的にはプラスになる可能性があります。

パラリンピックでよく見かけるスポーツ競技用の車いすも、確かにネガキャンになっていますね。

タイヤが八の字に取り付けられていることによって、スポーツ中に急旋回をしても転倒しにくくなっているわけです。

しかし、クルマのタイヤとスポーツ競技用の車椅子のタイヤでは、明らかに違うところがあります。

それは「太さ」です。

スポーツ競技用車椅子のタイヤは非常に細いので、ネガキャンにしないと確かに踏ん張りがきかないでしょう。

しかし、最近のクルマのタイヤは非常に太くなっています。

タイヤが太いということは、路面との接地面積が広いということになりますので、あえてネガキャンにしなくても、しっかりとコーナーリング性能を保つことができます。

昔のクルマはタイヤが細かったので、ネガキャンにすることでコーナーリング性能を向上させることができたかも知れませんが、太いタイヤを履いた最近のクルマではあまり意味がないといえそうです。

もちろん、超高速でコーナーを曲がるレーシングマシンなどであれば話は別です。

実際に、F1マシンは極太タイヤを履いているにもかかわらず、ネガティブキャンバーに設定されていますし、市販車であってもGT-Rのようなサーキットを走行することも考慮して設計されたクルマは、わずかにネガティブキャンバーになっています。

結論としては、ネガキャンというのはレーシングマシンのように超高速でコーナーリングするときには効果がありますが、一般公道しか走らない市販車にはほとんど意味がないということになります。

鬼キャンのクルマはむしろ走行面においては危険

サーキット走行などでコーナーを超高速で走るクルマ以外には、タイヤを八の字にするネガティブキャンバーはほとんど意味がないということが分かりました。

意味がないどころか、実は鬼キャンのように極端なネガティブキャンバーにすると、危険でさえあるのです。

実際に鬼キャンのクルマを間近で見てみると分かりますが、タイヤが極端に倒れているために、内側の角の部分しか路面に接地していません。

つまり、タイヤのエッジの部分で走行をしているわけです。

せっかくの太いタイヤを履いていても、角の部分しか地面に触れていないわけですから、接地面積は極端に少なくなります。

接地面積が少なくなるということは、すなわちタイヤが滑りやすくなりますし、ブレーキによる制動距離も長くなってしまいます。

さらに、極端なキャンバー角にすることによって、路面のちょっとした「わだち」などにハンドルを取られやすくなりますし、ハンドルの操作性そのものも極端に悪くなります。

つまり、鬼キャンにすることは、走行性能がアップするどころかむしろ危険であるということがいえます。

鬼キャンにすることはデメリットだらけ

鬼キャンにすることで、走行面ではプラスになるどころかむしろ危険であるということがお分かりになったかと思いますが、鬼キャンのデメリットはそれだけはありません。

まず、タイヤが極端に偏摩耗します。

これは、タイヤの内側のエッジの部分しか路面に接地していない状態で走行するわけですから当然のことです。

偏摩耗をするだけではなく、タイヤの減りそのものも極端に早くなりますので、最悪の場合はバーストの可能性すらあります。

また、鬼キャンにするためにはサスペンションを極端に改造しなければなりません。

そのため、足回りのパーツに無理な負担がかかることになりますので、走行中にパーツが破損して大きな事故につながる可能性もあります。

足回りに極端な改造をしていますから、サスペンション機能もまともに動作しませんので、乗り心地も極端に悪くなります。

また、極太タイヤを極端に傾けることで、走行中にタイヤのサイドウォールがショックアブソーバーに触れてしまい、その摩擦熱によって発火する危険もあります。

実際に鬼キャンにしたクルマが、車両火災を起こしてニュースになったこともあります。

このように鬼キャンのクルマには、実にさまざまなデメリットがあるということがお分かりになると思います。

鬼キャンは車検に通らないし不正改造で検挙される可能性もあります

タイヤにキャンバー角をつけること自体は、法的に何ら問題ありませんので、やりすぎなければ普通に車検に通りますし、不正改造扱いされることもありません。

しかし、鬼キャンのような極端な改造となると話は別です。

鬼キャン仕様に改造するためのパーツ類は、基本的に保安基準を満たしませんので、車検に通ることはありません。

また、鬼キャンのクルマというのは車高をギリギリまで下げていることが多いです。

いわゆるシャコタンといわれる状態になりますので、車検に通る基準である最低地上高9cm以上をクリアーできないと思われます。

参考:国土交通省の最低地上高に関する保安基準

また、鬼キャンのクルマに乗っていると、車検に通らないだけではなく、不正改造ということで警察に摘発されてしまう可能性もあります。

道路運送車両法99条の2の「不正改造等の禁止」に該当すると、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることになります。

鬼キャンのクルマに乗ってみたいなどと考えている人は、くれぐれもご注意ください。

文:山沢達也