スリックタイヤは溝がないのになぜグリップ力が高いのか?

F1カータイヤの溝がなくなってツルツルになると、危険だとよく言われます。

確かに、溝のないタイヤを見ると、いかにも滑りそうなイメージがあります。

でも、本当に溝のないツルツルのタイヤは滑りやすくて危険なのでしょうか?

レーシングカーに使われるスリックタイヤは、まったく溝のないツルツルのタイヤです。

コーナーリングスピードを稼ぐために高いグリップ力を必要とされるレース用のタイヤに、まったく溝がないのです。

もし溝のないタイヤが滑りやすいのならば、スリックタイヤを装着してレースなどできないはずです。

つまり、溝のまったくないスリックタイヤというのは、実はグリップ力が非常に高いタイヤなのです。

溝がない方がタイヤのグリップ力が高い理由

車のコーナーリング中は、外側に飛び出そうとする強烈なGがかかります。

もし、タイヤにグリップ力がなければ、車は簡単にスピンしてしまいます。

これは、氷の上でクルマを走らせたと想像してみれば、簡単に理解できるはずです。

しかし、氷の上ではなく普通に舗装された道路を走る場合、アスファルトとタイヤが接触する面には摩擦により強烈なグリップ力が発生します。

そのおかげで、車はスピンをすることなく安全にカーブを曲がることができるわけです。

そして、そのタイヤのグリップ力は、路面と接触している部分の面積が大きければ大きいほど高くなるのです。

レーシングカーに使用されるタイヤの幅が異常なほど太いのはそのためです。

タイヤが太ければ太いほど、路面と接する面積が大きくなるわけです。

また、タイヤの太さが同じであった場合、溝のあるタイヤよりも溝のないタイヤの方が接地面積は大きくなります。

溝のある一般的なタイヤの場合、溝のない凸の部分だけが路面と接触し、溝が掘られた凹の部分は路面と接触していないことになります。

それに対して溝のないスリックタイヤの部分は、タイヤの全面が路面と接しているわけですから、接地面積が大きくなるのは当然のことです。

接地面積が大きくなるということは、すなわちグリップ力が高くなるということですから、レーシングカーに溝のないスリックタイヤが使われるのは当然ということになるのです。

そもそも市販車のタイヤの溝は何のためにある?

タイヤタイヤに溝のまったくないスリックタイヤのグリップ力が高く滑りにくいということであれば、そもそも市販のクルマに装着されているタイヤの溝は何のためにあるのでしょうか?

実は、市販車のタイヤに掘られた溝の主な目的は、排水だったのです。

雨が降って道路に水がたまると、その上を走る車のタイヤと路面の間には水の膜ができやすくなり、グリップ力が一気に低下します。

路面の水によってタイヤのグリップ力が完全に失われた状態のときに起きるのが、ハイドロプレーニング現象と呼ばれるものです。

ハイドロプレーニング現象を起こすと、車は水の上を滑るような状態になり、ハンドルもブレーキも効かない制御不能な状態になります。

このハイドロプレーニング現象というのは、実はタイヤの排水能力の限界を超えたときに起こるのです。

そして、そのタイヤの排水能力というのは、タイヤの溝によって決まるわけです。

つまり、タイヤが摩耗をすることによって溝が浅くなってしまうと、排水能力が落ちてしまうことになります。

タイヤの溝がなくなった状態で運転をするのは危険であるとよく言われるのは、そういった排水能力の低下をもたらすからだったのです。

レースのときに強烈なグリップ力を発揮するスリックタイヤも、雨が降ってきたときにはまったくグリップ力が期待できない非常に危険なタイヤということになってしまうのです。

そのため、レース中に雨が降ってきたときには、ピットインして排水溝がしっかりと刻まれたレインタイヤに履き替えるわけです。

オフロード車のタイヤの溝がゴツイ理由

晴天時に舗装された道路を走るという条件下においては、溝のないタイヤは接地面積が大きくなることでグリップ力が高まることになります。

しかし、舗装されていない道路を走る場合には、タイヤの溝の意味合いはまったく異なることになります。

オフロード車のタイヤを見てみると分かりますが、かなりゴツイ溝が刻まれていると思います。

この溝は、もちろん排水の目的もありますが、それ以外に、平でないは路面を溝で引っ掛けることによってグリップ力を発揮させるという目的があるのです。

砂地や泥状の道を走るときには、地面そのものが柔らかいために、舗装された道路を走るときのようにタイヤと路面の摩擦による高いグリップ力は期待できません。

そういった道を走る場合には、タイヤの突起部分を地面に食い込ませることによって、グリップ力を得る必要があるわけです。

このことは、サッカーのスパイクをイメージしていただければ、理解しやすいかと思います。

サッカーのスパイクは、底にいくつもの突起物があることによって、土のグラウンドや芝生の上でしっかりと突起物が大地に食い込んで、高いグリップ力を発揮するわけです。

逆にサッカーのスパイクで舗装された道路を歩いたら、普通の靴にくらべて底の部分の接地面積が小さいために、むしろ滑りやすくなるに違いありません。

このように、同じタイヤの溝であっても、舗装された道路を走ることを前提に作られた車とオフロード車の場合では、その意味合いは大きく異なるということになるわけです。

スリックタイヤに使われている特殊なゴム

F1カーのスリックタイヤレーシングカーにとって、タイヤのグリップ力が高いことのメリットは計りしれません。

コーナーリングスピードがあがることはもちろんのこと、加速の際のホイールスピンもしにくくなります。

また、タイヤが路面をしっかりと掴むことになるため、ブレーキの効きも抜群によくなります。

そのため、レーシングカーのタイヤとして、接地面積を稼ぐことのできる溝のないスリックタイヤが採用されるのは、当然のことといえます。

しかし、レーシングカー用のスリックタイヤが驚異的なグリップ力を発揮するのは、溝がないことによる接地面積の大きさだけが理由ではありません。

実は、タイヤに使われるゴムの質が市販のタイヤとはまったく異なるのです。

レーシングカー用のスリックタイヤは、路面に吸い付くようなグリップ力を発揮させるために、非常に柔らかい材質のゴムが使用されています。

そのため、ワンレースを終えるとそのタイヤは磨り減ってしまって、まったく使い物にならなくなってしまいます。

市販のタイヤの場合には、普通に走っていれば数万kmは走行することができます。

それだけレーシング用タイヤにくらべてはるかに硬い材質のゴムが使われていることになります。

ゴムの材質が硬いタイヤほどグリップ力が弱く、滑りやすくなります。

このことは、底の硬い革靴と底の柔らかい運動靴のどちらが滑りやすいかを想像してみると、理解しやすいと思います。

よくタイヤの材質に関して、ハードコンパウンドとかソフトコンパウンドなどと言ったりしますが、まさに使われているゴムの硬さを表しているわけです。

これらのことから、同じように溝がないタイヤであっても、ツルツルに磨り減った市販のタイヤで、スリックタイヤのような高いグリップ力を期待するというのは大きな間違いということになります。

ちなみに、溝の深さが1.6mm以上ないタイヤで公道を走ることは、道路運送車両法に違反することになりますので、念のため。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする